東京高等裁判所 平成元年(行コ)34号 判決 1991年3月13日
控訴人
田上嘉延
右訴訟代理人弁護士
牛久保秀樹
被控訴人
品川労働基準監督署長首藤章二
右訴訟代理人弁護士
小松義昭
右指定代理人
藤宗和香
同
井上邦夫
同
水元幸実
同
木崎芳春
同
川橋勝
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取消す。
2 被控訴人が控訴人に対し昭和五三年二月一四日付けでなした労働災害補償保険法による療養補償給付たる療養の費用の不支給処分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり訂正、不可するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
一 原判決三枚目裏八行目の「エクタクローム」を(本誌本号<以下同じ>50頁1段10行目)を「エクタカラー」と改める。
二 同四枚目表一行目の「像で」(50頁1段21行目)を「像液」と改め、同行目の「漂白」(50頁1段20行目)の次に「液」を加える。
三 同六枚目表五行目(51頁1段5行目)及び同七枚目裏一一行目(51頁3段25行目)の各「チアシオン」をいずれも「チオシアン」と改める。
四 同八枚目表七行目の「ところであが」(51頁4段6行目)を「ところであるが」と改める。
第三証拠
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠に関する各目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する(略)。
理由
一 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正又は削除するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。
1 原判決一一枚目表一一行目の「一」(52頁4段26行目)の次に「並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証の四、五」を加え、同裏二行目の「成立及び存在」(53頁1段3行目)を「存在及び成立」と改める。
2 同一三枚目表四行目の「いずれも」(53頁3段22行目)の前に「前掲乙第一号証の四、」を加え、同五行目の「第八〇号証、」(53頁3段23行目の(証拠略))同行目の「第一号証の四、」をそれぞれ削除し、同行目の「第七」及び同行目の「第九」(53頁3段23行目の(証拠略))の次にいずれも「号証」を、同行目の「第一〇」の次に「号証、」をそれぞれ加え、同六行目(53頁3段23行目の(証拠略))の「第一四号証、」及び同九行目の「第一七」から同一〇行目(53頁3段23行目の(証拠略))の「二八号証、」までを削除し、同行目の「乙第八号証、」の次に「弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める甲第一七号証、第二七号証の一、二、第二八号証、」を加える。
3 同一五枚目裏八行目及び同一〇行目の各「一〇月」(54頁3段17行目および19行目)の次にそれぞれ「頃」を加える。
4 同一七枚目表八行目の「甲第二号証」(55頁1段27行目の(証拠略))の前に「成立に争いのない」を、同行目の「第三二号証の二」(55頁1段27行目の(証拠略))の前に「証人高橋邦丕の証言により真正に成立したものと認められる甲」を、同行目の「乙第一一号証の二」の前に「前掲」を、同裏九行目の「甲第九号証の一」(55頁2段24行目)の前に「証人高橋邦丕の証言により真正に成立したものと認められる」をそれぞれ加え、同一一行目の「、第六五号」(55頁2段26行目の(証拠略))を「号証、第六五」と、同一二行目の「前掲同」(55頁2段26行目)を「成立に争いのない乙」とそれぞれ改める。
5 同一八枚目表一行目の「チアシオン」(55頁2段27行目)を「チオシアン」と同行目の「認められるところ」を「認められ、(証拠略)によれば、チオシアン化合物による中毒症として精神障害があり、病理所見として脳の限局性傷害が認められることがあることが認められるものの」とそれぞれ改め、同二行目の「甲第九号証の一の」(55頁2段30行目)の次に「小脳機能障害に関する」を加え、同五行目の「したが」(55頁3段6行目)から同一〇行目末尾(55頁3段15行目)までを「もっとも、(証拠略)、原本の存在及び成立に争いのない甲第八七号証によれば、チオシアンイオンが体内においてシアンイオンに変わり得る可能性があるとする見解があることが認められ、かかる見解と(証拠略)の記述を併せると、チオシアンイオンが体内においてシアンイオンに変わり小脳機能障害を惹起する可能性も否定できないことになる。しかし、前記認定のとおり、控訴人がチオシアン化合物を含むエクタクロームE2、E3に触れていたとしても、その期間は昭和三九年六月から昭和四一年一〇月頃までであると認められるところ、(証拠略)によれば、控訴人が小脳機能障害の診断を受けたのは昭和四九年二月二一日以降の診察によってであること、(証拠略)によれば、控訴人は昭和四六年四月から昭和四八年五月までの間東邦大学附属大橋病院で各種検査を受けているが小脳機能障害の診断を受けたことは認められないこと、(人証略)によれば、神経内科において二年以上にわたって検査がされている以上、その間に小脳機能障害が生じていれば通常は右検査によって発見されていると考えられることがそれぞれ認められ、これらの事実に照らせば、控訴人の症状が小脳機能障害によるものであるとしても、その発症は昭和四八年五月以降と認めるのが相当であり、それ以前から小脳機能障害の症状があったとする証人高橋邦丕の証言は、前掲各証拠に照らし直ちに採用することができない。そうであるとすると、控訴人の小脳機能障害の発症は、控訴がチオシアン化合物に接触しなくなってから六年以上を経過してからのものであるところ、そのように長期間を経過したのちに小脳機能障害が発症することを認めるに足りる医学上の裏付け、症例も見当たらないし、また、(証拠略)によれば、控訴人がエクタクロームE2、E3に直接触れたとしてもそれによって体内に吸収されるチオシアン化合物の量は極めて微量であり、これが体内でシアンイオンに変わったとしても、内服の場合の中毒と異なり、控訴人の主張するような重篤な症状を惹き起こすものとは考え難いことがそれぞれ認められる。したがって、これらの事実にかんがみれば、(証拠略)におけるチオシアンイオンが体内においてシアンイオンに変わるとの前記見解を前提としても、控訴人がフィルムの現像処理作業でチオシアン化合物に接触することによって控訴人に小脳機能障害が生じたと認めることはできない。他に控訴人がチオシアン化合物また赤血塩に接触することによって控訴人に小脳機能障害が生じたと認めるに足りる証拠はない。」と改める。
二 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 石井健吾 裁判官 橋本昌純)